商店街にはヒーローが必要なんだ。板橋「まちづくりプロレス」誕生秘話
第5回目となる「未知草ニハチローのまちづくりのココロ訪問記
「それにしても、まちづくりプロレスって、いったい?」わくわくする期待感とともに、そんな素朴な問いかけも抱きつつ初めて観戦した「まちづくりプロレス」は、ときめくようなスペクタクルとともに涙あり笑いありの、それはとても楽しいワンダーランドでした。
そして試合後に「いたばしプロレスリング」の興行を成り立たせているキーパーソンの方々からさまざまなお話を聞くうちに、筆者はいつしか、こんなおもいが湧いてくるのを抑えられなくなっていました。
「地域で自然発生的に始まったこの草の根の活動から、今まさに地域創生の1つの新しい芽が、生まれようとしているのではないだろうか」と。
いたばしプロレスリングに集う人々の笑顔と熱気
何はともあれ、いたばしプロレスリングの試合を観てみたい! 朝から猛暑の続く7月3日(日)の午後3時頃、そんな思いを抱いて東武東上線・上板橋駅を下車。徒歩10分ほどで、「いたばしプロレスリング・上板橋北口商店街大会」の会場である上板橋平和公園にたどり着きました。
それだけで汗だくになる炎天下、ロープの張られていないリングの上ではミニコンサートが行われています。大会を主催する上板橋北口商店街ではこの日、恒例の夏祭り「ピカちゃんのゆかいなオリンピック祭り」が朝から開催されていました。
リング上のミニコンサートもそのプログラムの一環で、いたばしプロレスリングの試合はお祭りの最後を飾るメインイベントという位置づけなのです。
ちなみに「ピカちゃん」とは「マイスターかみいた」の愛称をもつ上板橋北口商店街のイメージキャラクター。商店街の中心にはプラネタリウムのある板橋区立教育科学館が立地しています。
ピカちゃんはプラネタリウムの主役である「星」を素材にしたゆるキャラであり、いたばしプロレスリング・上板橋商店街大会の主役「グレート・ピカちゃん」は、なんとピカちゃんがマスクマンに変身したという設定の地元ヒーローなのです。
ミニコンサートが終わると若手のレスラーたちが、リングにロープを張っていきます。その頃になると少しずつ子どもたちが集まりはじめます。やがてリングが完成していくにつれ、お父さんやお母さん世代の人たち、若者やお年寄りなども増えはじめます。
さぁ、あとは試合開始のゴングが鳴るのを待つばかり、となるまでの約30分間に、リングの周囲は老若男女でたちまち一杯になったのです。
観客は地面の上に敷かれたビニールシートや持参のゴザにすわったり、リングのそばの草むらに坐ったり、公園のベンチにすわったり、さらには立ったままリングを取り囲んだり。みんなが手慣れている感じで、それぞれ思い思いの姿勢で試合開始を待ちます。
そして午後4時。リングアナウンサーの胸躍るようなコールが試合の開始を告げた時、会場は一気に沸き上がるような大歓声で満たされました。
この日登場したプロレスラーはグレート・ピカちゃん(上板橋北口商店街所属の地元ヒーロー)、ハッピーロードマン(近隣にあるハッピーロード大山商店街所属の地元ヒーロー)、はやて(いたばしプロレスリング代表)、アグー(沖縄プロレス所属、アグー豚がマスクマンに変身したというユニークなキャラ)、がばいじいちゃん(九州プロレス所属、要介護者という設定の謎の高齢者!?プロレスラー)など計12人(うち2人は女子選手)。
対戦カードはわずか4つ、リング上の試合時間も実質計1時間強ぐらいです。しかし、レスラー個々のキャラに合わせた入場パフォーマンスがあり、楽しい観客いじりがあり、試合が始まれば全編息もつかせぬスペクタクルあり、涙あり笑いありの濃厚な時間を満喫できたせいか、1時間ちょっとで終わったという感じがまったくしないのです。
飽きっぽい幼児も飽きさせず、疲れやすいお年寄りも疲れさせず、プロレス初心者を楽しませ、プロレスに目の肥えた人たちをも唸らせるさまざまなワザもさりげなく散りばめられた正味1時間強。何よりも観客たちの笑顔の百花繚乱ぶりが、その満足度を端的に物語っています。
単に人を集めるだけでは済ませない、何かを観客の心に植え付けていくような、この絶妙な時間・空間をスムーズに演出していくには、相当な経験と技術に裏付けられたプロデュース力が求められるだろうこと、素人目にも明らかです。
その最大の推進エンジンである、いたばしプロレスリング・はやて代表に後日、お話を聞くことができました。